映画あるいは本について

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ヨーロッパ思想入門

 

ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)

ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)

 

「ヨーロッパ思想は、本質的に、ギリシアの思想とヘブライの信仰という二つの基調音をめぐって展開される変奏曲である。」(p.150)

 『○○ 入門』とかいうタイトルを、俺は信用していない。ラッセルの『哲学入門』は、どれだけ学生の心を折れば気が済むんだろう。

 そもそも『○○入門』なんて本が書けるのは、その分野の大家だ。そのせいか、読者に求めるものが多すぎるきらいがある。

 「周知のとおりハイデガーは~」、「デカルトがこういったように~」

 しらねぇよバカ。そういうことがわかんねぇから恥を忍んで入門書よんでんだよバカ。

 安易に入門書に頼ろうとしてはいけませんよ、そう諭されている気分になる。

 

 だけど、この『ヨーロッパ思想入門』はよく読めた。あるいは読めた気がする。

 ヨーロッパ思想をすごく基本的な視点から、バカ丁寧に解説した一冊。さすがは岩波ジュニアとつくだけあって、その親切丁寧な解説は、他の入門書の追従を許さない。多少の前提知識は必要とされるけれども、それを差し引いても分かりやすい。

 

 本書の特徴は、そのバカ丁寧さにある。著者は冒頭で以下のように述べる。

「『ヨーロッパ思想入門』と銘打ったこの本で、筆者が意図したことは、ヨーロッパ思想の本質を語ることである。ヨーロッパ思想は二つの礎石の上に立っている。ギリシアとヘブライの信仰である。この二つの礎石があらゆるヨーロッパ思想の源泉であり、二〇〇〇年にわたって華麗な展開を遂げるヨーロッパの哲学は、これら二つの源泉の、あるいは深化発展であり、あるいはそれらに対する反逆であり、あるいはさまざまな形態におけるそれらの化合変容である。」(p.ⅲ)

 このとおり、ギリシアとヘブライの信仰がヨーロッパ思想の礎石だと述べる。そして、その礎石を全体の2/3を割いて、バカ丁寧に解説する。普通の入門書なら1行で済ませる内容を、わざわざ引用までして数ページにわたって説明する。おかげでするすると内容が頭に入ってくる。

 へぇギリシア人はこんなこと考えてたんだ、へぇ聖書にはこんなことが書いてあったんだ。そんなことを思いながらページをめくっているうちに、気がつけば西洋哲学を学ぶための土壌が出来ている。頭の中がクリアになる。他の入門書ではなかった感覚だった。

 本書の後半部分では、中世以降の西洋思想の歩みが述べられているが、これはオマケ程度に考えてもいいかもしれない。読みやすかった前半部分に比べると、教科書的記述に終始していて正直しんどかった(それでも普通の入門書よりは格段に読みやすいけど)。

 

 長々と書いてしまったけれど、ヨーロッパ思想の入門書を何か一冊と聞かれたら、俺ならこれをお勧めする。大きい書店じゃないと置いてないのが欠点かな……

 

以下気に入った箇所の引用

「人間は自らの知をたよりに行為する存在者であるが、その知は狭く暗い。したがって、自分が人生へ投げ込んだ意図の波紋を見通すことができない。人間の行為が思わざる致命的結果となって自分自身へ跳ね返ることは、人の知と力の有限性からいって必然なのである。神々とは、悲惨な結末によって、人間にその有限性を思い知らせる行為の状況の暗さ、世界の暗さ、存在の闇にほかならないであろう。」 (p.42)

 

「人間が自分に都合がいいように、自分の利益になるように、自分の気に合うような神の像を刻むことがここで禁止されている。しかし、そのような像を刻む性向を人間はもっている。なぜなら、人間は自分の願い事をかなえてくれる神を望むからである。」(p.98)

 

「律法の完全な遵守により正しい人間になろうと精進するとき、人はたえず人生のあらゆる局面で律法の定めを意識し、立法の細則を立て、自分の一挙手一投足がそれらの掟に外れていないかどうかを心配するようになる。そうすると、掟の遵守にとらわれるあまり、人間性の自然な発露を失う危険に陥るのである。」(p.144)